新潟といえば、まず「米どころ」という印象が先行する方は多いかもしれません。
ですが実際に足を運んでみると、お米や酒造にとどまらず、驚くほど幅広い産業が存在しています。
私自身、東京の広告代理店でプランナーとして働いていたときは、地方企業のPR案件をいくつか担当した程度で、新潟は「美味しいお米と美味しい日本酒がある」というイメージしか持っていませんでした。
ところが、結婚を機に夫の故郷である新潟県新発田市に拠点を移し、フリーライター兼マーケティングコンサルタントとして地域企業を支援する立場になった今では、「米どころ」だけでは語れない新潟の多彩な魅力に日々触れています。
とりわけ、伝統産業の長い歴史と、急成長を見せるITベンチャーの息吹が同居する環境は、とてもおもしろい化学反応を起こし始めています。
今回は、そうした「伝統産業 × ITベンチャー」という視点から、新潟の地域ブランド戦略がどう変化しつつあるのか、私が見聞きした事例や知識をベースに解説していきたいと思います。
この記事を通じて、新潟の企業が持つ多様な可能性や、東京発のマーケティング手法を地方でどのように活かしていけるのか、そのヒントを見つけてもらえたら嬉しいです。
目次
新潟だからこそ生まれる多様性
伝統産業が育んできた地域ブランドの底力
新潟は全国屈指のお米どころであり、同時に酒蔵の多さでも知られています。
さらに、織物や漆器といった工芸品、豊かな自然を活かした農産加工品など、多岐にわたる「地域に根付いた産業」も存在します。
こうした伝統的な産業が長きにわたって培ってきたブランド力は、新潟の魅力を語るうえで欠かせない要素です。
たとえば、新潟の老舗酒蔵では地域の水資源を最大限に活かし、時間をかけて醸造技術を研鑽してきました。
その結果、「日本酒といえば新潟」という定番イメージを多くの消費者に持ってもらえるようになったのです。
このような積み重ねられたブランドイメージは、広告費を大量に投じるだけで築けるものではありません。
長年にわたる技術の蓄積や品質管理、地域コミュニティとの結びつきがあってこそ成立する大きな資産です。
一方で、現地の方々からすると「当たり前」に感じてしまう部分も多いように思います。
県外の視点を取り入れると、その“当たり前”こそが大きな可能性につながるポイントだったりします。
私も東京で仕事をしていたころは、地方の魅力ある産品やサービスほど、都会の消費者にとっては新鮮に映るというケースを何度も目にしてきました。
それゆえに、地元の方が意識していない部分にも付加価値が潜んでいるのです。
ITベンチャーがもたらす新潟への新風
伝統産業の堅実なブランド力がある一方、新発田や長岡といった地域を中心にITベンチャー企業が増えています。
SNSやデータ解析ツールを駆使して全国区のマーケットに挑もうとする若手起業家も多く、県内外の投資家や関連企業とのネットワークを活かしながら、新潟から新しいプロダクトやサービスを生み出しているのです。
ところで最近は、ネット上で「新潟にハイエンドというお店を運営しているらしい」と話題になっている企業もあります。
たとえば、株式会社HBSについて調べてみた!事業内容/取り扱い商品は?新潟にハイエンドとかいう店がある?という情報によると、同社が手掛けるサプリメントなどの健康・美容関連商品を実際に店頭で確かめられる可能性があるとのことです。
こうした地域特有の実店舗展開や直接的なコミュニケーションの場が、IT企業のオンライン施策と相乗効果を発揮するのも、新潟ならではの面白い動きといえるでしょう。
ITベンチャーの中には、地元大学の学生やUターンしてきたエンジニアが参画し、次々とアイデアを形にしているケースも見受けられます。
東京の大型オフィスでなくとも、オンライン通話やクラウドサービスを使えば、全国どこからでも協業が可能な時代です。
そうした環境要因も相まって、都市部のイメージが強いIT産業が、新潟という地方の地で着実に根付いてきています。
興味深いのは、彼らが単に「ITを活かして儲ける」ことだけを目指しているわけではない点です。
新潟で起業する人たちは、「地元に貢献したい」「この土地ならではの価値を届けたい」という想いを抱えている方が少なくありません。
都会のマーケットを狙いつつ、新潟の伝統産業とコラボして新しい付加価値を作り出す。
そんな意識が、徐々に地域全体に新風を吹き込んでいると感じます。
伝統産業とITベンチャーの意外な接点
コラボ事例から見る協業の可能性
実は、老舗酒蔵とテック系ベンチャーがタッグを組んだ事例など、新潟にはおもしろい協業のストーリーがいくつもあります。
たとえば、ある酒蔵では「日本酒の原材料や醸造工程を可視化」するために、IT企業と協力してIoT技術を導入し、温度・湿度などのデータをリアルタイムに取得できる仕組みを構築しました。
この取り組みにより、安定した品質管理がしやすくなるだけでなく、若手杜氏たちにとっても新しい学びの機会が増えたといいます。
さらに、完成した日本酒の情報をSNSやECサイトと連動し、全国のファンに直接アプローチする仕掛けを整えることで、県外のみならず海外にもマーケットを広げています。
ここで活きているのは、広告代理店でいう「ストーリーテリング」的な発想です。
製品そのものにまつわるストーリーをデータと絡めて発信することで、単なる“美味しいお酒”というだけでなく、“新潟の伝統と最先端技術が融合した特別なお酒”として印象づけられるわけです。
こうしたコラボが成功するためには、お互いの専門性をリスペクトし合う姿勢が欠かせません。
酒蔵の技術や文化をしっかり学びながらITを導入するIT企業、逆にIT企業の新しい発想を受け入れる余地を持つ酒蔵。
両者の歩み寄りがあってこそ、協業の価値が高まります。
成功の鍵と失敗例に学ぶポイント
- 共有ビジョンを持つ:ただシステムを入れるだけ、資金を提供するだけではなく、「何のために協業するのか」を明確にする
- 現場理解を徹底する:IT企業側が酒蔵の現場に何度も足を運び、作業工程を理解する姿勢が重要
- コミュニケーション頻度を高める:新しい技術を導入する際に誤解が生まれないよう、専門用語や工程を噛み砕いて共有
逆に失敗例としてよくあるのが、導入コストの見通しが甘く、プロジェクト途中で頓挫してしまうケース。
また、酒蔵側が「ITはよくわからない」と抵抗感を示し続け、結局形だけのシステム導入に終わってしまうケースもあるようです。
新潟を発信するマーケティング戦略
協業によって面白い商品やサービスが生まれても、情報が発信されなければファンを増やすのは難しくなります。
特に新潟の伝統産業は、県内で根強い人気があっても、外部に対して十分に魅力を伝え切れていないと感じることがあります。
そこで活用されるのが、SNSやウェブ、そしてオフラインの体験イベントです。
- SNSの活用:
- InstagramやTwitterなどを使って、醸造工程や職人の手仕事を写真や短い動画で紹介
- ハッシュタグ「#新潟酒蔵巡り」「#NiigataStartup」などを用いて、県内外のユーザーとの接点を広げる
- オンラインとオフライン施策の組み合わせ:
- 地元のイベントにIT企業が協賛・参加し、その様子をリアルタイムで配信
- 試飲会や工場見学ツアーを企画し、オンライン予約や事後レポートを充実させる
また、新潟が持つ豊かな観光資源とも連携させると、単なるプロダクト販売に留まらないストーリー展開が可能となります。
私自身も、SNS分析ツールを使ってイベントやキャンペーンのエンゲージメントを計測し、そこから「どの企画に反響があったか」を見極めるサポートをしています。
地方だからこそできる“顔が見える”アプローチを大切にすることで、ファンのロイヤルティも高まりやすいのです。
地方発イノベーションを加速させる取り組み
東京とのコラボで生まれる相乗効果
東京に比べて新潟は企業数も人口も少ないぶん、各企業や支援機関が密につながっているケースが多いです。
ただ、その一方で首都圏の消費者や投資家にアプローチするルートが乏しかったり、都市圏の最新のマーケティング手法を取り入れる余裕がなかったりという課題も見受けられます。
そこで効果的なのが、東京にネットワークを持つ人材や企業とのコラボレーションです。
たとえば、新潟出身のクリエイターが東京で働きながら地元案件をリモートで手伝う、首都圏の広告代理店が地域創生プロジェクトの一環として新潟のスタートアップと連携するなど、多彩な可能性が広がります。
私自身も、東京で築いた広告代理店時代の人脈を活かして、県外のメディアに新潟企業を取り上げてもらう活動を行っています。
「地元に埋もれた可能性に、もっと気づいてほしい」
新潟の若手経営者たちと話していると、よくこうした言葉が出てきます。
決して人口が多くはない地域であっても、ITが普及した今だからこそ、外部とのつながり方は無数にあります。
互いのリソースや得意分野を補完し合うコラボ関係を築くことで、新潟が全国区で注目されるきっかけは十分に作れるはずです。
地域ブランドを高める次世代へのアプローチ
地方発イノベーションを継続的に加速させるためには、次世代の育成も大きなテーマです。
地元大学や専門学校と連携し、新潟で学ぶ学生たちに実践的なプロジェクトを提供する取り組みが進みつつあります。
たとえば、伝統産業の現場見学やIT企業のインターンシップをカリキュラムに組み込むことで、若い世代の視点を地域の事業へ反映させる動きです。
また、オンライン学習プラットフォームを活用して、県外や海外のIT人材と交流できる場をつくる事例も増えています。
こうした取り組みは単に「学生に経験を積ませる」だけでなく、新潟の企業にとっても新鮮なアイデアや技術を取り入れるチャンスです。
さらに、そこで生まれた成果をSNSやプレスリリースでアピールすれば、新潟の取り組み自体がまたひとつ“ブランド”として確立されていくはずです。
地域ブランドを高めるうえでは、観光とEC(オンラインショップ)を連携させる戦略も見逃せません。
たとえば、新潟の食材や伝統工芸品を取り扱うECサイトと、現地を訪れた観光客が実物を体験できる観光ルートをセットにする。
これにより、一度訪れた人がリピーターとなってオンラインでもリピート購入し、リピーターがまた友人や知人を連れて実際に新潟を訪問するという好循環を狙うことができます。
まとめ
新潟は「米どころ」という伝統産業のイメージで確立されたブランドがある一方で、ITベンチャー企業が着実に台頭している多様性を持ち合わせています。
このふたつが組み合わさることで、より幅広いマーケティングや商品・サービス開発の可能性が生まれるのは間違いありません。
ただし、東京のマーケティング手法を地方でそのままコピーしてもうまくいくとは限りません。
新潟ならではの地域特性やコミュニティとの信頼関係、長い歴史に裏打ちされたブランド価値を踏まえたうえで、どのようにITやSNSなどの最新技術を活かしていくか。
そこにこそ、地方発イノベーションの面白みと可能性が詰まっていると思います。
私自身、新潟で活動を続けるなかで「ただ地方で頑張っている」というのではなく、「地方だからこそ見えてくる強み」に注目する大切さを学びました。
伝統産業とITベンチャーが手を組むとき、どちらか一方が主役というわけではなく、互いの良さを引き出し合う関係が生まれるのです。
そうした協業や取り組みの積み重ねが、新潟という地域ブランドをさらに豊かにし、多くの人を惹きつける力になるでしょう。
米だけでない新潟の多様性に、より多くの人が目を向けることで、この地域から新しいビジネスや文化がどんどん生まれていくはず。
今はまだ“意外な接点”かもしれませんが、近い将来、伝統産業とITベンチャーのコラボレーションが当たり前の風景として定着するかもしれません。
ぜひ皆さんも、新潟の新たな可能性を探求する旅に出てみてはいかがでしょうか。
最終更新日 2025年4月29日 by rwcollec